「ほら、駄目だよ」
「ん〜……だって、眠い」
「眠いって、子供じゃないんだから…ほーら、起きて。起きなさい」
「少し、だけ…」
余程疲れていたのか、屋外でのピクニック…という解放的な場所で、彼女は意識を手放した。
「僕と一緒っていうだけで、帽子屋さんもアリスちゃんの機嫌も悪くなるっていうのに…こんなに無防備に寄りかかって、そんな可愛い顔見せるなんて…」
くすりと笑って、柔らかな頬を軽くつつけば、僅かに眉がひそめられる。
「可愛いなぁ…」
白ウサギの作った、偽りの世界
その中に落ちた、想定外のキミ
それはまるで、本に落とされた一滴の染み
「…染み、にしては…君はとても、綺麗だ」
空を飛ぶ鳥も、地面に生えている草さえも…全てニセモノ
だけど、この手に触れている君は、確かにここにいる
「不思議だなぁ…どうして僕は、こうして君といるんだろう」
君に対しての僕の感情は、まるで絡まった毛糸玉みたいだ。
なんとなく転がしたら動いたから、そのままじゃれていたはずなのに…気づいたら夢中になって、追いかけている。
「…もっと触れてみれば、わかるかな」
頬を撫でていた指先を、微かに開いた唇へ触れさせる。
艶やかな赤い唇は、乗せられた指を気にすることなく、変わらず呼吸を続けていた。
そんな様を見て、自然と笑みが零れる。
「美味しそうだなぁ…味見、しちゃおうか」
そっと顔を近づけて、その頬へ口づけようとすると…よりかかっていた身体が、ぐらりと揺れた。
「うわっ」
反射的に支えると、彼女は僅かに身じろいだ後、更に僕のほうへ身体を摺り寄せてきた。
「ちょ、ちょっと…?」
「ん〜〜…」
「…あー…」
寄りかかっていたはずの身体は、いつの間にか僕の腕の中で丸くなっている。
まるで、遊びつかれた子供を、抱きかかえている母親のようだ。
「やれやれ…これじゃあ、味見も出来ないよ」
苦笑しつつ、それもいいか…と思い、ほんの少し身体を倒して、こめかみに優しく口づけた。
「おやすみ、。目覚めたら、また一緒に遊ぼうね」
だから今は…優しい夢を
僕の腕の中で、見て…
誰でも美味しく食べちゃうチェシャ猫さんが、食べられない相手…ってのがいたらいいかなと。
そんなんで浮かんだので、書いてみた。
2010/11/07